夕方頃、同じ村に住む友人のロックミュージシャン、パプチから電話がかかってきました。
いつものように、今晩はどこそこのバルに飲みに行こうという誘いの電話かと思ったら、いつもの元気な声で
「ボクの家が今燃えてる」
と言うのです。そしてその電話の背後には消防車のサイレンの音が。耳をすませば、たしかにパプチの家の方角から同じサイレンの音が聞こえてきます。
慌てて車を出してパプチの家に飛んで行くと・・・家の内部は見事に真っ黒焦げ。家自体は石で出来ているので、上に住む弟夫婦の家に燃え移る事も前の庭の木々にも飛び火する事もなく、ただパプチの家の中だけが見事にスモークされていました。
木製の家具は見事に燃えてなくなり、パソコンは溶けて現代アートの作品のようになり、パプチお手製の録音スタジオは煙で燻されて、黒一色で統一したモダンでスタイリッシュな録音スタジオのように風変わりし、お気に入りのギターはエレキギターもアコースティックギターもフラメンコギターも全て真っ黒。
パプチのお爺さんが建てたこの家を孫兄弟3人で3等分して、それぞれの玄関をつけて三世帯が住むように改造した古くも新しい家の一階部分は、たった2時間だけ離れている隙にあっという間に燃えて炭のようになってしまったのです。
原因は全く不明。おそらく漏電が原因ではないかと現場検証の警察が話をしていました。
不思議だったのは、これだけ見事に燃えているのにお爺さんが残した100年以上前の古い図書とその本棚だけは全く燃えていなかった事です。
そしてもう一つビックリしたのは、行方不明だったパプチの愛猫が消防隊員によって部屋の中から救出されて出てきた時。それまでは誰の腕にも抱かれる事を嫌がり、近づくもの全てを爪で引っ掻き噛み付いていた無愛想猫が、すっかり性格が変わって消防隊員の腕の中で人懐っこい猫となってグルグルと言っているのです。よっぽどショックだったのか・・・。
パプチの火事のニュースを聞いて集まった仲間たち。しばし家の前で呆然と立ち尽くしていたのですが、ある瞬間、パプチがポツリと言いました。
「ま、今日は日も暮れて何も見えないから何もできないし、全部燃えたのでこれ以上失うものもないし、人間も犬も猫も死ななかったので・・・」
「とりあえず良かったって事で、今日の所は飲みに行こうじゃないか」
と言う事になり、いつもにも増して行きつけのバルで大宴会となったのでした。バルのご主人も、こんな特別な時にはパーッと御馳走するよ〜!といつもの倍のタパスとワインが出てきたのでした。
火事場のバカヂカラとはまさにこの事・・・?