しなやかに生きる音楽仲間
新型コロナ
南米コロンビアで始まるコンサートツアーを控え、その前に3週間だけレコーディングのため日本へ帰った。時期は2020年1月だった。まさかその帰国が、その後3年近くもスペインに戻れなくなる往路になるとは夢にも思わなかった。
新型コロナウイルスの影響がまたたく間に広がったのだ。01年から日本基地として拠点にしている小さなスタジオが京都にある。そこで身動きが取れないまま、スケジュールが次々と中止となる状況にただただ呆然としていた。コロナの波は全世界に広がり、国境が扉を閉ざした。同時に全ての音楽会が消えた。
一方で、世界がロックダウンに静まり返ると、世界中に散らばる音楽家仲間から便りが届くようになった。日本や欧州在住の音楽仲間が悲鳴をあげているのに対して、意外にも中南米の音楽仲間の大半は動じていなかった。
中南米の彼らにとって平常時もコロナ時もあまり状況が変わらないからだ。日ごろから畑を耕し、生活に必要な分だけを物々交換している。家も車も楽器も自分で修理する。政府も金融機関も基本的には信じておらず、金融ローンなどは元から組んでいない仲間が多かった。
彼らはいつでも何も無い方に基準を設定して生きている。演奏会があれば収入につながってラッキー、仕事がなくてものんびりできてラッキー。どんな状況でも幸せを見つける考え方が染み付いているのだ。
アンデス山脈の秘境に住んでいる先住民コギ族の音楽仲間からも近況報告があった。遠い昔にコロンブスが疫病を持ち込み、祖先の地を荒らしてひどい目にあった。以来、アンデス山脈の奥地の奥地に引きこもって民族を守ってきたから、今回のコロナ拡大後も特に今までと変わらないので問題はない、と話していた。
また、キューバのかつての同僚は、ソ連崩壊後の経済危機の時と同じだから慣れていると言う。
愛しい音楽仲間たちが世界の各地でしたたかで、しなやかに生き延びていた。その様子を思うと、自分はまだまだ修行が足りないなと感じた。