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中部経済新聞連載「マイウェイ」第29回

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音楽に感じた先住民の祖先の記憶

ボリビア・ウルビチャ村
ボリビアの事実上の首都ラパスで、大統領婦人が主催するチャリティーコンサートを任されたことがあった。コンサートでは、以前から関心があったウルビチャ村に暮らす先住民族と共演できることになった。
ウルビチャ村は、アマゾン川流域に続く熱帯雨林の奥深い場所にあった。ランドクルーザーに揺られ、道なき道をなんと片道2日かけて訪れた。
村ではバイオリンの前身のような古楽器が、つくり方から奏法まで伝承されていた。数百年前にスペイン、ポルトガル人宣教師が住み始めて、西洋の技術や学問を先住民に教えた際に伝わったものだとされている。宣教師たちが去った後も、ウルビチャ村の先住民はその古楽器をつくり、奏で続けてきたのである。
まさに17世紀初頭から18世紀半ばまでのバロック時代の音楽が生きたまま保存されているようだった。広場に集まって奏でる青年楽団のバロックの響きは、シンプルで美しかった。聴いた時に「ぜひとも一緒に奏でたい」と思った。なんとか首長を説得した。村のみんなでバスに乗って、アマゾン低地から標高4千メートルの大都市ラパスへ行くことが決まった。
ラパスの国立劇場でのコンサートは忘れることができない演奏会の一つだ。劇場は満員の観客で埋まった。
ウルビチャ村の音楽は約500年途切れることなく紡がれた。その糸の中には豊かな大地の響きとともに、侵略されて消えゆく祖先の戦いの記憶も刻まれているようだった。欧州には存在しない幾層のハーモニーが聞こえてくるようだった。
このチャリティーコンサートの収益は、貧困地帯で口唇裂(こうしんれつ)の子どもの手術代に充てられた。この時に初めて、音楽が人を助ける力になることを実感した。
ラパスは世界で最も標高が高い首都とされている。空気が薄い場所では、星の光があまり瞬かずまっすぐ届くように、ピアノの音も打鍵をすると響きに濁りがなくストレートに飛んでいくようで美しかった。
なお楽屋に置いてあった大統領夫人から私への差し入れは酸素ボンベだった。後日談だが、ウルビチャ村の楽団も行きはお祭騒ぎの遠足気分だったのだが、帰途はほぼ全員高山病で伏せたまま帰ったそうだ。

  • 2023年04月04日(火)18時33分
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