テレビ番組の背景音楽を作る時、難しいのはオーダー通りの時間の尺にぴったり終わるように曲を仕上げる事だ。
私は鉛筆と消しゴムと五線紙で曲を書く。身体で直接音符を書かないと、オタマジャクシから音が聞こえてこないからだ。録音も、後から編集で切ったり貼ったりすると曲が死んでしまうので、手を加えない事に決めている。
なので、時代遅れにも100パーセント人力で尺にぴったり合わせて弾き終わらなくてはならない。
しかし人間のテンポ感というのは相対的で、その時の鼓動の速さや環境によって感覚は一定でなく、♩=60(1秒)が短くも長くもなったりする。
だからコンピューターで演奏するみたいにピッタリに終わるのは結構難しい。
そんなわけで、思い通りに弾けても最後の最後で尺が合わなければ最初からまた弾き直すしかないという、100年前の録音と変わらないことをしている。
困った事に、何故かピアノを弾いている最中だけアラビア数字が全く頭に入らない。数字を見てもそれが模様にしか見えなくて、数字という概念で捉える事ができない。なので、デジタル時計で秒数を表示されても時間の感覚が掴めないのだ。針時計だと針の向きでかろうじて尺がつかめるのだが、演奏に集中するとさっきまで何時だったのかが思い出せなくなってしまう。
先日のNHKの番組挿入曲のレコーディングの時も、色んな種類の時計を置いてみたら何が何だかわからなくなってしまった。
曲という生き物を時間で計ろうとする時、無機質な数字は曲に浸透していかない。分秒数は曲が始まって終わるまでの年齢みたいなものだからだ。
その時、撮影をしてくれていた保山さんが提案してくれた。「砂時計は?」
ああ、そうか!
砂時計という時計がこの世にあったではないか。時を最も納得できる形で可視化してくれるものが。
次の録音に向けて2分と5分と10分と1時間の砂時計を探す事にした。
見つかるかな。