自然と対話して敬意払う
アイヌの暮らし
アイヌの青年から、映画「スターウォーズ」の戦闘シーンみたいな音が一晩中阿寒湖から聞こえることが1年のうちに数日あると聞いた。季節は12月末。極寒の季節が始まり、夜間の気温が氷点下10度を下回るようになると阿寒湖が全面凍結し始める。湖面が凍る過程の気温変化により氷が膨張し、亀裂が入るときにその音が鳴る。音は「ズキューン、ズキューン」と聞こえる。
亀裂音は厚さ十数センチの氷の奥底から届くように感じる。普段足元から鳴る音を聞く機会はない分、全身がぞっとするような美しさだ。
雪が積もる直前の結氷湖を渡ると、まるで透明なガラスか水の上を歩いているような不思議な感覚になる。湖面は夜になると鏡のようになって星や月を映し出す。氷の音が鳴らない間は耳が痛くなりそうな静寂が湖を包み込む。
標高4千メートル超のアンデス山脈で、星座を見分けられないほど夜空を星が埋め尽くすことはよく目にしてきた。だが、何も苦労して遠くのアンデス山脈まで行かなくても、京都からわずか数時間で訪れられる阿寒湖でも負けないほどの夜空が広がっていた。
アイヌの人たちは休日になると家族総出でかんじきを履いて森に行ったり、湖の氷に穴を開けてワカサギを釣って遊びながら食料を蓄える。ワカサギは天ぷらにしたり、細長いヨモギの枝に目刺にして一夜干しの保存食を作る。
雪が溶けると山菜の季節になる。アイヌの人しか知らず、山菜がたくさん生える場所があり、ギョウジャニンニクやコゴミ、福寿草などさまざまな薬草を集められる。私も昨年一緒に連れて行ってもらい、山奥に分け入った。目がくらむほど山菜が生い茂っているのに必要な分しか採らない。つぼみや実がついている貴重な山菜には敬意を払って手を触れない。
1年を通して日々の生活を見せてもらった。一年中、森や湖が与えてくれる恵みと対話して、遊びながら収穫し、貴重な保存食として蓄える暮らしなのだと感じた。
暮らしの生活音そのものが音楽となっていた。森に入るときにカムイにあいさつする呼び声、女性たちが並んで座って山菜のとげや虫を取る際の歌、男たちのリズミカルな木彫りの音。どんな季節に訪れても、なんて美しい音世界が阿寒の森にはあるのだろうと思うのだ。