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PIANIST | MINE KAWAKAMI オフィシャルサイト | DIARY

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中部経済新聞連載「マイウェイ」第50回

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日本の尊い音たち

地球の響き
 地球は美しく尊い音であふれている。自然が生み出す音。人間が作った音。心や夢の中で聞こえる音。ピアノという楽器を始めて半世紀。心が求める音を探し世界を旅して多くの人や音楽と出会ってきた。
日本ほど人が作った「古い音」が途切れず、伝え残されている国は、私が知る限り他にはない。1270年間一度も絶えることなく続く奈良の東大寺の祈りの行事「お水取り」で歌われる声明、今年で888回目を迎える春日大社のおん祭。音楽が口頭で伝承され続け、時代が移ろいでも当時の姿のままの音楽を生演奏で聞くことができる。
それは、ただひたすら絶やすまいとの信念を持った人の思いがあるからだ。戦争や侵略の歴史が繰り返された欧州や南米大陸と違い、日本の言葉は2千年以上同じだ。古くから伝わる言葉や音には、いにしえの記憶が染み込んでいる。人の清らかな思いと記憶が宿った音こそが、人の心を震わせモノを動かす大きな力になるのだと、旅が私に教えてくれた。
音とは不思議な存在だ。時空を超えて、生身の人間が行けない世界まで行き来する。だからこそ世界中の宗教や儀式で音楽が使われ、人の願いや祈りの「乗り物」となって届けたい人に運ぶ。美しい音楽は人を癒やし、言葉を超越して心に直接届き慰める存在になる。
今、その音があまりに多くのものに遮断され、かき消され、聞こえないよう扱われている。生活騒音による遮断にとどまらず、声がする方向を頼りに大切なものを探しにいったり、耳を澄ます時間や感覚そのものが失われている。
疫病に戦争、耳にしたことが無いようなニュースが駆け巡っている。つい最近まで当たり前だったものが突然変わる。今後もさらにこのような状況が続くような気がしてならない。  しかし、美しい音が存在する限り、人はしなやかに幸せに生きていけると信じている。
私は日本人として長久手で生まれ育ち、ピアノという楽器に巡り会えたことに大きな感謝と運命を感じている。世界が見たくて飛び出したのは、美しき日本の奥深さと先人が命懸けで残してくれたものが何かを知るためだったのではないかとさえ思う。そんな気持ちで、今日もまたピアノのふたを開けるのだ。(おわり)

  • 2023年04月28日(金)17時39分
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