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中部経済新聞連載「マイウェイ」第37回

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NHKラジオやテレビ番組へ

季節を描いた72曲
巡ってくる季節と人の心のつながりに惹かれるようになった。私たち日本人は、桜の花をみて誰かを思い出したり、季節ごとに移り変わる空や野山を見てさまざまな記憶と結合させて、目に見えないものと再会しているようだ。
季節が心に語りかける力は、どこか音楽と近いものがあると思えてならなかった。それまでに暮らした海外の国では、季節は冬至や夏至などが宗教行事と関わっていることがあっても、日常的に文学や伝統とつながっているという印象がなかった。
例えば、スペイン南部のコルドバで暮らして感じたのは乾季の夏と雨季の冬の二つの季節。コロンビアのメデジンは、1年中花が咲き蝶が舞う常春。キューバのハバナは、多少の寒暖差があるものの年中夏のようだ。
おそらく地球のどの国も感覚を研ぎ澄ませて観察すれば、365の季節があるのだろうが、それを日常的に見つめている国は日本だけではないだろうか。
日本では動植物の小さな変化を美しい言葉にして一つ一つに名前をつけている。1年を72の季節で表現した七十二候(しちじゅうにこう)では、「山茶始開(つばきはじめてひらく)」や「土潤溽暑(つちうるおうてむしあつし)」など候の名前を見るだけで風景が思い浮かぶ。
幼い頃から身の回りの豊かな自然の小さな変化を感じていた。長久手の小学校に通っていたころ、小さな体で自然豊かな片道約4キロメートルの通学路を毎日歩いて、いっぱい道草をくって、知らぬ間に体が覚えていた感覚だった。
長久手の懐かしく温かい季節の記憶を、ピアノの音で記録してみようと思い立った。七十二候に合わせて72曲をつくり始めた。その曲をコンサートで演奏しているうちに、NHKラジオの深夜番組のディレクターから連絡をいただき、毎日の番組となって放送が始まった。
その後、新たにNHKテレビ番組向けにも追加で72曲をつくった。さらに四季を24等分した二十四節気(にじゅうしせっき)に合わせて24曲を2回つくった。気がつけば、季節を描いたものだけで200曲ほどが生まれていた。現在でも放送が続いている。
季節の移ろいをピアノで描くことがルーティンになっている。これからもずっと続けていきたいと思っている。

  • 2023年04月13日(木)23時01分
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