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中部経済新聞連載「マイウェイ」第3回

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樹々、鳥、雷楽しい音たち

豊かな音
 幼少期は愛知県立芸術大学(長久手市)の森にあった官舎で暮らしていた。そこは豊かな自然とともに多彩な音にあふれていた。
自宅の壁の向こうからはピアノの音が聞こえてきた。そのピアノでレッスンが始まる際には、決まってピアノのトレーニングである「ハノン」の音階練習の音が鳴った。一緒に自宅前にあったキョウチクトウの樹木の枝が風に合わせて揺れて「ギュッギュッ」と音がした。なんてきれいな調和だと思っていた。
また、聞こえてくる声楽にもいろいろな歌があった。オペラもあれば、語りささやくような歌も聞こえてきた。
豊かな音は、音楽だけではなかった。彫刻家のおじちゃんが石を掘る音も印象に残っている。トンカチで「カンッカンッ」とノミをたたく音にはいろいろなリズムがあった。石の場所によって音の高さが急に上がったり、下がったりしていた。トンカチのリズムに合わせて、よく歌を口ずさんでいた。
自然の音も好きだった。自宅前の樹木には山バトがよく止まった。自宅の子ども部屋にあった2段ベッドからもよく見え、その鳴き声が童謡の「ゾウさん」のように聞こえた。時には別の歌にもなり、ノミをたたくリズムとも合わさった。
雷の音も印象深く覚えている。特に好きな音だった。雷が鳴ると、父も一緒に喜んでいた。耳をつんざくような大きな音を、家族みんなで耳を澄まして聞いていた。
眠りにつく前には父と母が交代で足踏みオルガンを弾いてくれた。両親はピアノを弾けなかった。今振り返れば、何を演奏していたのかは思い出せないが、大好きな音だった。ペダルをガタガタと踏んで、鍵盤の音が鳴っていた。
そんな私は毎夜「オルガンの演奏が、いつまでも終わりませんように」と思いながら、眠りに落ちないようにしていた。次第に「これが最後の音だな」「音楽も眠るものだな」ということを、幼いながらも分かるようになってきた。
昼間のにぎやかさから一転して、夜は一挙に静けさが訪れた。静かなはずなのに、何よりもその音が大きいと思っていた。昼間は人が物を作っている音、ピアノなど多くの音が聞こえてくるが、夜はそれがしない。そのことを、なぜだか強く覚えている。
オルガンの音楽を聴くうちに、自分でも弾いてみたいと思うようになっていた。3歳からピアノのレッスンを受け始めていた。

  • 2023年03月03日(金)00時40分
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