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中部経済新聞連載「マイウェイ」第40回

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チューチョ・バルデスと再び共演

2度目のコンサート
キューバ人ピアニストのチューチョ・バルデスと、念願の2台のピアノコンサートが実現することになった。
チューチョ・バルデスは私のピアノ人生に大きな影響を与えた人物だ。最初に出会ったのはクラシック音楽に行き詰まっていた学生の時。次は15年後にキューバで共演をした時。しかし、レベルが違いすぎて全く歯が立たなかった。そして3度目のチャンスが奇跡的に巡ってきた。私にとって四半世紀にわたりピアノに向かう原動力となってくれた存在と言って間違いない。
会場はマドリード王立劇場を選んだ。世界屈指のオペラ劇場だ。私のように外国人が個人でイベントを企画運営するというのは通常なら不可能なことだったが、ここで過去に2回演奏をした実績のおかげで演奏できる権利を得た。2018年12月にコンサートを開催することが決まった。座席は1700席。中央には国王専用の特別席がある。
準備は想像をはるかに超えて大変だった。巨匠ピアニストと日本人女性のデュオが話題になり取材や番組出演で忙しくなった。雑務が重なり、練習する時間も体力も削られた。自分はただシンプルに夢だった最も尊敬するピアニストと演奏をしたいだけでも、まるで渦潮のようにいろいろな人や物事を巻き込んで複雑になっていった。幾度も断念した方がいいのだろうかと悩んだ。
コンサート当日がやってきた。風のない、晴れた美しい日だった。会場はほぼ満席となった。演奏曲の半分はチューチョ作曲の曲、半分は私が作曲した曲だ。
2台のピアノはデュオというより地球の自然現象そのものだと感じた。チューチョの音が樹、私の音が鳥。チューチョの音が雷雨で私の音が虹。チューチョの音がバッファローの群れで私はその大地から巻き起こる土煙。目を合わせながら演奏をしていく。まるで互いの顔の表情が楽譜そのものだった。
熱く優しく音に身を委ねてくれる聴衆も舞台から見えた。学生時代、ピアノで途方に暮れていた自分に衝撃を与えたチューチョの演奏姿に、自分がほんの一瞬だけ重なった。最後の音を弾いて立ち上がった時に舞台から見た客席の風景は忘れられない。皆、笑顔だった。拍手が鳴り止まなかった。私は泣いていた。

  • 2023年04月18日(火)20時54分
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