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中部経済新聞連載「マイウェイ」第33回

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テレビ番組にレギュラー出演

スペインでメジャーデビュー
 2008年にスペインの音楽エージェントと契約を結ぶことになった。日本的に言えば「メジャーデビュー」をした。
日本人ピアニストがトークをしながらオリジナルピアノ曲を演奏するスタイルが独特だったためか、スペイン全土から演奏の依頼を受けるようになった。おかげでスペイン、つまりイベリア半島をくまなく巡ることができた。
スペインは農業、漁業国である。日本と同じように訪れる先々で豊かな特産物があった。演奏会の合間に市場や漁港に立ち寄るのが大きな楽しみになった。次第に見物しているだけでは物足りなくなった。調理用の包丁を持参して、ツアー中も現地の食材で自炊をするようになった。
スペインは実に食文化が豊かだと感じた。ローマ時代から続く手法でウナギ漁をする村、永遠と続くオリーブ畑の中にある町、熊やオオカミが生息する集落、修道院を中心にワイナリーが多く集まる町など、各地に文化が根付いていた。旅をすればするほどスペインという国の豊かさに魅かれた。
そのうち料理雑誌や料理番組などにも出る機会が増えた。料理をしながらツアーをするピアニストが珍しかったのだろう。2010年には、首都マドリードのバラエティー番組にレギュラー出演することが決まった。人気作家で毒舌の司会者が毎回ゲストを招いてトークを展開し、私はシーンに合わせて音楽を即興で生演奏するという役割だった。映画館でしか見たことのないような大物俳優や歌手たちが毎回ゲストとして登場するのは刺激的だった。
興味本位で引き受けたものの、始まってみるとあまりの大変さに逃げ出したくなるほどだった。週1度の収録日以外はピアノ漬けで、ひたすら歌謡曲を調音して書き取る毎日だった。収録本番で膨大な歌謡曲の中から何をリクエストされても弾けるようにならなくてはならなかった。
視聴率を上げるため、時には過激な演出が仕組まれていた。羊飼いが羊の群れを連れてスタジオに乱入したりゲストとバトルを展開した。収録の度に寿命が縮まるかと思っていた。  その番組も放送開始から数カ月たたないうちに司会者の政治的な問題発言が引き金となり、あっという間に終了した。心の中では再び自由の身になれることに少しホッとしていた。

  • 2023年04月08日(土)18時18分
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