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中部経済新聞連載「マイウェイ」第8回

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募るドイツへの思い

地下鉄で空想
高校への通学は大好きな「空想タイム」であった。長久手の自宅から地下鉄藤が丘駅まで自転車を走らせ、愛知県立明和高等学校(名古屋市)のある市役所駅(現名古屋城駅)まで通った。地下鉄の車内ではいつも座る席を決めて、空想に浸っていた。
この空想の中ではいつもヨーロッパやエジプトなど海外が舞台になった。ピアニストや漫画家になる物語、砂漠や山脈など秘境を旅する物語、はたまた超能力者になる物語、王子様が別の国から迎えに来てくれる物語…。目を閉じて、その内に広がる風景は壮大に広がっていた。
地下鉄での移動中はいろいろなことを思いついた。思いついた話は忘れずに記憶し、帰宅してピアノの練習の後の深夜、漫画に描き綴った。時には朝まで夢中になって描き続けた。  一番の〝大作”はムー大陸に生まれた預言者の女の子が地球と時空を大冒険する物語だった。最後は天地が割れて火山が大爆発し主人公もろとも大陸が沈むという壮大なストーリーだった。巻頭をカラーで描き、20巻まで続けた。
空想に浸る中で、海外で暮らしたいという夢は膨らむばかりだった。高校卒業後の進路を決める時期に、多くの同級生は東京の大学を目指し猛練習に励んでいたが、私はドイツの大学に進学したいと思うようになっていた。
ドイツには強烈な思い出があったからだ。かつて両親がドイツで生活したことがあり、私自身も幼少期に家族で1年ほど過ごしたからだ。
思い切って、ドイツへの進学希望の思いを父に相談した。父は自宅から歩いて行ける愛知県立芸術大学(長久手市)で教員をしていたが、愛知芸大への進学を勧めるわけではなく、逆にこちらが驚くほどあっさりとドイツ行きに賛成してくれた。
その後の父の行動は早かった。戦後、初期の国費留学生として父がドイツへ渡った時にお世話になったミュンヘン在住の夫妻に連絡をしてくれ、その夫妻の家で下宿できるよう段取りしてくれた。国際電話でその夫妻とドイツ語で話す父を見ながら、その姿に格好良さを感じていた。自分もこんな風にドイツ語は話せるようになりたいと思ったものだった。

  • 2023年03月09日(木)19時31分
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