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中部経済新聞連載「マイウェイ」第32回

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フラメンコの響きはジャスミンの香り

スペインの古都コルドバ
中南米はスペイン語を話す国々が隣り合っている。まるで一つの国のようだ。特に音楽関係の誰かとひとたび親しくなると芋づる式にその音楽の根っこが国境を越えてつながっている。気が付いたら毎年、中南米のいくつもの国々をハシゴしながら演奏や録音の活動を続けていた。
そもそもスペインと中南米は、歴史的にも政治経済的にも非常に近い関係にある。スペインの首都マドリードやバルセロナからは1日に数十便という南米行きの航空路線が直行している。
中南米への交通の便が良かったこともあり、2006年から5年ほどスペイン南部のアンダルシアの古都、コルドバに住んでいた。コルドバはかつてスペインがイスラム教国だった西暦800年頃から世界最大の都市として栄えた都だ。現在もまるでアラビアンナイトのように美しいイスラム様式の建築や文化が色濃く残っている。
さらに「アンダルシアのフライパン」という異名を持つほどの極暑地帯だ。真夏になると気温が50度に達する。このため人々は日が暮れると町に出て、活動するという夜型の生活を送っている。夜になると風が吹き、イスラム庭園に咲くジャスミンの香りが町中に漂っていた。
コルドバには移動型民族のジプシーが多く暮らしている。彼らが歌うフラメンコは、スペイン・マドリードのフラメンコショーとは全く違う。主人公は踊りではなく歌い手。即興で叙情詩をギターとともに歌い上げる。歌声の中には彼らの祖先がはるか北インドのあたりからやって来た道の記憶が共鳴している。ギターとジャスミンの香りが重なって美しく響き合っていた。
ある日、暮らしていたアパートの地下室で水道管の取り替え工事が始まった。すると地中から30体ほどの西ゴート族のミイラが出現した。アパートはジュピター神殿の向かいにあり、かつて墓地だったらしい。千年ほど昔に葬られた人々は頑丈な布をまとって全員西を向いて大きな口を開けて横たわっていた。
コルドバはどこを掘っても遺跡だらけだった。もはや出土品保管センターの倉庫にも置き場所がなかった。役場の人が遺跡の写真を撮りに来ただけで、工事は続行して新しい水道管とともにミイラもまた土に埋めてしまっていた。
コルドバは歴史を博物館に封印してはいない。歴史も含めて「今」が営まれている。ジプシーの歌が祖先の記憶をたたえているように。

  • 2023年04月07日(金)18時37分
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