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コギ族のシモ。

スペインに帰れないまま夏がやってきた。

京都の家に引き篭もる中、引き籠り中で暇を持て余している世界中の知人から連絡が時折やってくるので面白い。

今日は南米コロンビアのアンデス山脈の先住民、コギ族の青年シモから電話がかかってきた。
久しぶりに電波と電気があるところまで山を降りたので、電話をかけてみた、と。

シモに出逢ったのは3年ほど前にコロンビアのサンタマルタという街に演奏会に行った時で、特別ゲストとしてコギ族に伝わると言う天地創造の詩をコギ語で朗読してもらった時だった。

アンデス山脈の高地で今も伝統的に暮らしているコギ族は外部との接触をほとんど持たずに暮らしているのだが、現代文明との接点を持つ為に数年に一度、部族会議で優秀な若者を一人選出して皆でお金を出し合って学費と生活費を渡し山から一番近い文明都市であるサンタマルタの大学に「留学」させている。その奨学生に選ばれて通信技術とスペイン語を当時学んでいたのがシモだった。
彼はいつも全身真っ白な服で身を包み、自分で編んだという不思議な模様の入った肩掛け袋を下げて、
コギ族の食べる植物以外は口にしないという生活を送っていた。背は私よりも小さくて、まるで少年のように華奢な体をしていた。心が優しくて、今まで出逢った事のないほど純粋で無垢な澄んだ瞳を持った青年だ。

彼の人生で私が「初めて出逢ったアジア出身のアジア人」なのだそうで、日本の話を聞きたがるので時々私も写真を送ったりすると、彼も近況報告で実家の写真を送ってくれたりする。
その「実家」の風景がとんでもなく美しい。
そこは、電気も器械もない世にも美しい風景が広がる木々も生えないほどの高山で、茅葺の屋根を持つ煙突状の土壁で作られた家が数軒並ぶ小さな集落だった。常夏のカリブ海に近いアンデス山脈の最北端に位置するにも関わらず、すぐ近くに見える峰々には万年雪が積もっている。サンタマルタから何時間もかけてバスで山の麓まで行って、そこから徒歩で3日かけて道なき山を登って到着する所にその集落はあるのだと言う。コギ族はコギ語のみを話し、自然の恵みから得た物を口にして完全自給自足の生活を送っているという。コーヒーもカカオも植物自らが望んで生えた(自生した)実しか食べないのだと言う。
外部や観光客との接触もないので、伝染病なども無く、病気になれば祈祷と薬草で治療をするのだそうだ。
大航海時代にスペイン人が渡来し、多くを破壊し彼らの疫病がもたらされた頃から沈黙を貫き通し、500年間ロックダウンを続け、誰も入れる事なく生き抜いた部族とも言える。

そんな彼が久しぶりに山を降りて目の当たりにした「ロックダウン中」の現代都市の姿が衝撃的だったらしい。人々の姿が恐れと怒りに満ちていて、地獄のようだった、と言うのだ。


コーヒーが大好きな私にとって、コーヒー産地として名高いサンタマルタに行った時に飲んだ本場のコーヒーは、天にも昇る美味しさだと思った。しかしシモンは私に言うのだった。

「サンタマルタのコーヒーはマズすぎて、とてもコーヒーとは呼べない」。

ああ、一度でいいからシモの故郷のコーヒーを飲んでみたい。

  • 2020年07月20日(月)20時01分
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