ビガス・ルナという大好きな映画監督がいます。
スペインを代表する映画を何作も世に送り出した鬼才監督で、女優ペネロペ・クルスなど今では世界規模で輝く多くの俳優を発掘した人でもあります。
映画「ハモン・ハモン」は私にとっても衝撃的な映画で、その映像の美しさというか、風景の見せ方に圧倒され、今思えばそもそもスペインに行きたいと思ったきっかけとなった映画です。
ペネロペ・クルスのデビュー作ともなったこの映画「ハモン・ハモン」。映像も衝撃的ですが、内容はもっと衝撃的です。もし機会があったら是非皆さんも見てみてください。ただ、お子様と一緒に見ると説明しきれない場面が山盛りあるので、その辺は覚悟が必要です。
そんな事もあって自分が死ぬまでに一度で良いから直接会ってみたいと思う人の一人がこのビガス・ルナでした。
映画監督である前に自分は写真家であると言う彼の作品は本当に美しく、色彩に充ちたエロティズムが潜んでいて、一方では動物の描写には愛情が溢れ、植物とは会話をするような作品です。
最近はカタルニア地方の田舎での野菜作りに力を入れていて、バルセロナのレストランなんかにも彼が作った有機野菜を卸していたそうです。
先月3月19日の事でした。
メールの受信箱を見た瞬間、腰が抜けそうになりました。その本人のビガス・ルナからメールが届いていたのです。
"Hola Mine soy Bigas Luna,
estoy escuchando tu música hace varios días ,que maravilla , el disco del camino es una auténtica joya llena de creatividad y paz gracias!!
Espero que pronto nos podamos conocer,mientras sígo escuchando tu música , un beso."
「こんにちは、ミネ。ビガス・ルナです。
君のCDを何日か前から聞いています。なんて素晴らしい。CD「巡礼の道(オ・メウ・カミーニョ)」 は本物の宝物のようだ。創造と平和に満ち溢れている。ありがとう。
近いうちに会いましょう。君の音楽を聴きながら。」
本人のメールを日本語に訳して載せる事が良いかどうか何度も考えたのですが、やっぱり皆さんにも知っていただきたいと思って載せる事にしました。なぜかと言うと・・・。
それから2週間半後の4月5日。再び今度は本当に腰が抜けそうなほどビックリするメールが入っていました。ビガス・ルナの事務所の方からの連絡でした。
ビガス・ルナが亡くなったというのです。
原因は急性の癌でした。ニュースを見てみたら、どこもトップでビガスの訃報が伝えられていました。
出逢いとは、なんて不思議なものなのでしょうか。
「出逢う」という事は、人と人が顔を合わせて会うだけでないのだと思わずにはいられません。
心と心、思いと心、この世にいる人とこの世にいない人、過去と今、今と未来、人と音楽、そして・・・。
「ビガスは自分の命があとわずかである事は良く分かっていました。そして、最後の彼の時間をあなたの音楽は間違いなく彼をお伴していましたよ」そう文章は締めくくられていました。
今、ビガスのメールを読み返してみると本当に不思議な気持ちになります。彼は何処にいるのだろう。
何処にもいない?あるいは何処にでもいる?
私も明日からレコーディングが始まります。今日も一日ピアノに向かいながら、ふとビガスを思うとその瞬間に、彼の気配を和音と和音の響きの間に感じるような気がしてなりません。