心を揺らす壮大な自然
ボリビア・アマゾン川
2004年に南米ボリビアへ初めて訪れ、ピアノ演奏をした。日本の政府開発援助でアマゾン川流域に暮らす先住民のための巡回病院船が建造された。それを記念しての日本とボリビアの交流コンサートだった。
現地では病院船に乗って医師とともにアマゾン川を下った。流域の先住民の多くは生まれ育った小さな集落から生涯出ることはない。悠久の時を感じさせる自給自足の生活を営み暮らしていた。
病院船には外科や内科、歯科、婦人科などの設備がそろっていた。それぞれの専門医も乗り込み治療に当たっていた。集落に停泊するとすぐに行列ができた。特に婦人科と歯科が大人気だった。女性は12、13歳で子どもを産み始め、30代では孫がいた。水や害虫などが起因して乳幼児や子どもの死亡率が高く、平均寿命は40代とのことだ。
先住民は治療費を払うお金がないので農作物を治療費として提供していた。医療スタッフもその差し入れで食材を賄っていた。
航海中に釣りに励んだ。豚肉のかけらを餌にして、ピラニアが面白いほどに釣れた。唐揚げにしてライムを絞って食べると、鶏のササミのようでおいしかった。ピラニアは肉には群がっても生きた人間は襲わないようだった。川で泳いで遊んだ。時々ピンク色の川イルカがやってきて、一緒に泳いで楽しんだ。
アマゾン川の夜の美しさは言葉で表現ができない。電気がない分、夜空が満点の星空で埋め尽くされた。ジャングルには数え切れないほどホタルが飛び交い、天と地の境目が消えて銀河の中に浮遊しているかのような世界が広がった。カエルや虫は不思議な音階で声高に歌い続け、大きな動物が横切るたびに一瞬にして森が静寂に包まれた。また先住民の子どもたちは一本釣りのハンモックに入って、風に揺られながら眠っていた。ヒョウに食べられたり、虫に耳の鼓膜をかじられたりしないようにするためと聞いた。
この恐ろしいほど美しく、壮大な地球の自然をどうしたら多くの人に伝えることができるのだろうかと考えていた。写真、録音、言葉には収め切ることができない。「ピアノの88個の鍵盤を88種類の色にして情景を一つ一つスケッチしていこう」。そう思い、旅の景色をピアノの音に変換して記録することに夢中になっていった。